土佐の一本釣り
広重の六十余州名所図会シリーズが何点か入荷しました。
六十余州名所図会は1853年(嘉永6年)から1856年(安政3年)にかけて制作された広重晩年の作で、
五畿七道の68ヶ国及び江戸からそれぞれ1枚ずつの名所絵69枚に、目録1枚を加えた全70枚からなる名所図会です。
土佐の題材で選ばれたのは豪快な鰹の一本釣り漁です。広重 「六十余州名所図会 土佐 海上松魚釣」
さすがに広重が土佐まで取材しに行ったのではなく、
「日本山海名産図会」の「土州鰹釣」を典拠としているようです。
鰹は3月初旬から中旬は初鰹をして刺し身で食べ、
5月までは春節、8月までは秋節として鰹節に加工したそうです。
タイトルは「松魚」でカツオですが、
鰹節が松の節に似ているため、そう書くようになったようです。
ところで、浮世絵の中に小さな魚を撒く姿が描かれています。
これは生きた鰯で、これを海に放つと鰹が群がり、
そこに鰯を針に刺した棹を投じると、たちまち鰹が食いつくという仕掛けです。
波のうねりと漁師豪快な一本釣りにのその土地の文化と自然がうかがえる名品です。