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掛軸の鑑定は何をどう見ているの?

掛軸の鑑定は何をどう見ているのでしょうか。
鑑定の際に必ず見るポイントは「箱」「鑑定証」「表具」そして「本紙」です。順番に解説していきます。

1. 箱

掛け軸作品を鑑定するとき、まず最初に見るのが「箱」です。
お客様の中には稀に、箱など邪魔だとばかりに捨ててしまうことがあります。これはしかし、大変なミスになります。
なぜなら、箱には2つの役割があるからです。

(1)保存の役割

掛け軸が入れてある箱は、高級なものは「桐箱」に入っており、やや安価なものは「杉箱」が用意されています。また、少ないですが、妙味のあるものに固くて重い「柿の箱」もあります。そして、ごく安いものは紙箱に入っています。

標準的には、桐箱に入っていますが、これには重要な意味があります。桐箱は、呼吸をしているのです。湿気を一定程度に保ち、掛け軸作品を守る役割があります。
掛け軸の大敵は、湿気と乾燥。湿気が強すぎると、カビが生えてきますし、乾燥しすぎると本紙が固くなって、折れ目や割れ目ができてしまいます。

状態をよく保ち、掛け軸を保護している、という意味で箱がきちんとしていることは重要です。これは評価にも影響します。

(2)作者特定の役割

そもそも、箱にはたいてい、何が入っているか、書いてあります。一般的には、作者と画題。これがないと、中身が何なのかそもそもわからなくなるケースさえあります。

鑑定的な意味は2つほどあります。アタリマエのことですが、中身の作品と外見の箱の内容が一致していること。現場では入れ替わってしまっていることがしばしばあるのです。箱が一致していないとき、サイズも一致していないことがあるので、これは印象がよくありません。だぶだぶだったり、キツキツだったりしてはいけないのです。

さらに、一致しているとして、次のルールがあります。

A.江戸期以前
多くの場合、箱は本人でなくて、弟子や親戚が書きます。すなわち、その作者の関係者が箱に文字を記して、「鑑定」するわけです。これが信用のある人物で、字もまちがいないか、よく見極める必要があります。

B.明治以降
箱の文字を作者本人が書く、というルールが近代では習慣になりました。たいてい、表に題名、裏側に作者名がありますが、例外もあります。いずれにせよ、この箱書きが本人のものかどうか、が重要です。
このニセモノがものすごく多いのです。竹内栖鳳、横山大観、川合玉堂などは高価に取引されてきたため、特によく似せたニセモノがあります。細心の注意を払って鑑定する必要があります。

2. 鑑定証

箱の中には、しばしば鑑定証書のようなものが入っています。これには二通りあります。

(1)極書、折り紙

見たことのない人はピンとこないでしょうが、小さい折り紙のようなものが古い掛け軸には入っています。江戸期には小さな紙に鑑定証書を書くのを生業にしている家がありました。そうした人たちが書いた「極め」というものが、ひとつ、ないし複数入っています。「極め付き」「折り紙付き」という言葉は、ここから来ていると思われます。

ただし、注意しなければならないのは、この「極め」にはデタラメなものが混じっていることです。なので、この極めはあればいいというものではなく、そのものがよい極めか、筋の悪い極めか、よく見ないといけません。また、これでけで評価・真贋が決まるというわけでもありません。

(2) 鑑定証

これは、主として戦後の日本画家に関して、東京美術倶楽部の鑑定証、ないし、遺族や一族の方の鑑定証が添付されています。これも本物の鑑定かどうか、チェックしないといけませんが、本物であれば、ほぼこれは間違いない本物と言っていいことになります。

明治以降の主要画家の(2)の鑑定はかなり重大な意味を持ちます。必要な場合は、あらたに取得することがあります。

3. 表具

表具がどういう裂地が使われているかも、査定に重要な影響をもたらします。
現在では入手が難しい、高級な裂地が使われている場合、評価の助けになります。とくに、江戸期以前の古いものは、由緒正しい家に伝わってきたかどうかは、この表具で決まると言っても過言ではありません。

4. 本紙

さて、いよいよお待ちかね、中身の絵の評価になります。
まず、軸は広げる前に持った重さも査定のヒントになります。実は、しっかりした掛け軸は適正な重みがあります。変に軽い軸は、ひどい仕立てであることが多く、注意が必要です。

掛け軸は、基本壁にかけて下に広げていくか、誰かに軸木を持ってもらって、下に広げていきます。

このとき、上から下へ実は「物語」が展開します。掛け軸は、床の間に飾るので、鑑賞者の視線は下から上に行きますが、広げるときは、上から下に広がっていきます。一流の掛け軸は、この下からの目線でも、上から目線でも、物語を感じさせないといけません。上から見ていくと、最初は空白、次に何が出てくるか、がドラマになることがあります。そんなところにも、絵描きのセンスが出てくる、と言えるでしょう。

掛け軸は、まず本紙が二通りあります。(1)紙(2)絹
紙の場合、気軽に書けるため、割合増産できる作品が多く、絹に比べると評価の低いものが多くなります。これは大昔から昭和にかけての話で、現代の絵画には当てはまりません。絹地は貴重でかつ、格調高く描けますので、「本番」的な作品は絹に描かれることが多いのです。

また、掛け軸は次の三種類があるといっていいでしょう。
(1)書
(2)画賛もの(絵(画)と字(賛))
(3)絵画
この3つは江戸期以前はどれも当たり前に描かれており、どの種類の作品も描く人がたくさんいました。時代が下るほどに、(3)だけになっていきます。
江戸期は実は(2)の形式が多く見られます。これは文人画と呼ばれるものの特徴ですが、伊藤若冲、円山応挙、谷文晁など本格的絵画作家もこの形式を取るものが多く、しばしば僧侶やパトロンなど、偉い人が絵画部分と呼応する文章や詩文が書かれています。文人画と呼ばれるものは、本人が漢詩を記す形式が一般的です。

これに落款と呼ばれる「署名」と「印章」があります。真贋、評価はこの全ての要素を丹念に見る必要がありますが、同時にプロであれば一瞬で判断が必要なものでもあり、熟練が必要とされます。

絵画に関しては、「年代」「出来栄え」「着色の有無」など様々なファクターが絵の評価を決めていきます。さらにはカビ、シミ、傷、など状態も重要な要素です。江戸期以前のものは、状態はそれほどうるさく言いませんが、昭和期以後のものはかなりコンディションが評価に影響します。修復は非常に難しいので、売却前に保存を考えて修復する場合は、必ず私どもにご相談下さい。


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