銀座の画廊<秋華洞>社長ブログ

美術を通じて日本を元気にしたい! 銀座の美術商・田中千秋から発信—-美術・芸術全般から世の中のあれこれまで。「秋華洞・丁稚ログ」改題。

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 東美アートフェア(岡本大竹二人展)

   


展示の紹介はこちら https://www.syukado.jp/exhibition/tobi_2019/

来る金曜日から、私達秋華洞は大竹彩奈と岡本東子の二人展を東京美術倶楽部にて行います。

今は展覧会の直前にもかかわらず、二人の画家がどんな作品を出してくるか、全貌は私どももつかめておりません。なかなか不安なこの時期なのです。

岡本東子、大竹彩奈はふたりとも東京芸大の大学院まで進んだ秀才ですが、どちらかといえば当時としては珍しい、女性の人物像をひたすら描いてきた二人です。池永康晟さんとともに、「美人画ブーム」なるものの火付け役を務めてきた自負のある私ども秋華洞ですが、この二人はその「ブーム」が起きる前から「美人画」的なものを自ら追求してきた画家たちです。

では、彼女たちが「美人画」の復権を目指して画業に取り組んできたのか、といえばそういうことではないでしょう。それぞれが自らの目指す表現を求める過程で、「美人画」の枠組みがあとからついて来て、そこの文脈で語られることをあえて拒まなかった、ということであるかと思います。

岡本東子は、「男性目線」があることを前提として作画されてきた「女性画」を、女が女であることの生理を表現しようとしてきたと思います。デビューの頃からその傾向は明らかで、あくまでも凛々しい、自ら立とうとする女性や、反対に自らの生き方に懊悩するかのような女性像を、どこか狂おしいような闇が支配する特有の空間に描き出してきました。 

一方で大竹彩奈は、女性の「色気」を描こうとしてきました。さらには日本の土着的な狂気のようなものと絡めて「性」の持つ怖ささえ提示しました。女性像のみならず歴史画など物語的描写に長けた画家です。

その存在に気が付き、呼び寄せたのは池永さんでした。そして、私どももふたりの活動を間近で見たい、と願い、それは現実のものとなりました。

ここで大事なことは、決して彼女たちは池永さんや私達の活動に影響を受けて今の画風を作ったのではなく、私達が惚れ込んで「美人画」の系譜の中においてみたい、と願ったことです。

彼女たちの作品は「和服を着たキレイな女性を描く」という、いわゆる美人画のステレオタイプに当てはまることも事実です。現代の肖像画は現代のリアリティを考えると、必ずしも和服姿である必要はないのですが、彼女たちはおそらくは一つには美術史上に登場する美人画へのリスペクト、そして自らが和服好き、というところから和服美人を描く傾向があるのでしょう。

美人画一般の話をすれば、実は美人画は顔を美人に描いてもたいして面白くありません。美人画がもっとも盛り上がった大正時代の作品群【甲斐庄楠音、島成園、北野恒富、竹久夢二、鏑木清方、上村松園などなど】を見ていただければわかるのですが、実は大事なのは顔よりもむしろ、和服の柄であり、布の折り目が作る動作の表情です。そして手先と髪の毛の動き。背景や小道具との関係。この原則は国芳や北斎が描いた春画の法則とも通じます。

今回のふたりの作品を見てもらうと、なみならぬ「布」の描き手であることがわかります。そして、手の表情。顔だけでなく、彼女たちが何を企図して作品を作ろうとしているのか、見てほしいと思います。

さて、今回のテーマは「色と欲」。なんともすごいテーマですが、これは私どもが用意したわけではありません。二人展をやるにあたって、二人で共通の「お題」を考えてもらうようお願いしたところ二人から出てきたテーマです。人間を深く捉えたい、と願っている二人が、このシンプルで普遍的なテーマを打ち出してきたことに私は嬉しい驚きを覚えました。

個人的なことを言えば私が最も見たいと願っていることは、「洋画/日本画」のいうドメスティックで架空のカテゴリわけを超えて、日本の絵画が「人物」像にふたたび真正面から向き合うことです。先程あげたデカダンの大正の美人画の人たちは、女の肉体に「自我」の発現を見て新しい表現を試みますが、それに限らず日本絵画は、小林古径、安田靫彦、村上華岳、岸田劉生、青木繁なども、人というものの「聖性」の表出に取り組んできました。戦後の日本美術は、人物のもつ生々しさを遠ざけて、よくも悪くも「記号」として人物を整理してしまってきた歴史ではなかったかと感じるのです。

美術がどうあろうと、私達人間は息をして食べ、生殖し、あるいは祈り、生きています。そのことに美術はたびたび立ち返るものであってほしい。

この二人の女性画家に、日本絵画の息遣いを深めてもらえたら嬉しい、と思います。

岡本東子・大竹彩奈二人展

会期2019年10月4日(金)〜6日(日) 会場東京美術俱楽部(東京都港区新橋6-19-15)時間10月4日(金) 午前11時 〜 午後8時
10月5日(土) 午前11時 〜 午後6時
10月6日(日) 午前11時 〜 午後5時 備考ブース 3-22
入場料 当日券1,000円 詳細は公式サイトをご覧ください

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