London Shunga その4
展示の内容に戻ろう。
今回の展示は、いわゆる浮世絵の名品、それも状態の良いものをシッカリ揃えたという印象。これを紹介するとチト当たり前の内容になるので、
ここでは肉筆などを中心に紹介しよう。
週刊ポストの付録に”雪鼎の「幻の肉筆画」を収録!”との新聞広告がでたようで、実際、雪鼎に関する問い合わせがきたこともあり、一生懸命見てきた。
月岡雪鼎(つきおかせってい)は上方で西川祐信と双璧をなした絵師。雪鼎の肉筆春画は火事を逃れられると信じられていた。火事よけというのはこの人の春画に限らないとは思うが、何か特別の力が信じられていたのだろうか。wikiのこの人の項目には、わざわざエピソードが添えられている。
愛液の描写がすさまじい。写真に撮るのがチト照れくさくて、遠巻きの写真をとった。詳しくは芸術新潮に載っているので見てほしい。この鬼気迫ると言っても良い描写の力はなんだろうか。確かにあらゆる魔除けに使えそうな執念を感じる描写だ。と信じられてもおかしくないほどの生命力を感じる。月岡雪鼎が何か特別な作家かといえば、浮世絵師としては「たんなる一級」くらいに私は考えているけれども(例えば北斎や栄之が超一流として)、やはり本作はなにか特別なオモイが籠っているように思う。
鳥文斎栄之の肉筆掛軸もこの機会にしかおそらく見られない力作。この力強さ、艶やかさ、気品は他にない。
「馬鹿夫婦 春画を真似て 手をくじき」 A foolish couple copy the shunga spraining a wrist.
江戸時代の狂歌を紹介してくれている。
とわざわざデカイ看板で笑わせてくれる。これは今回演出にあたった大英の学芸員さんのウィットというべきだろう。
日本語の方がずっと可笑しいけど。
これが面白いのは、春画の体位は、現実にはどう考えても不可能な体のねじり方をしているという事を庶民みんなが知っている、という背景がある。
春画は、江戸期はどうも各家庭にひとつ以上あって、しかも女性が嫁入り道具に持ってきていたらしい。本当かどうかは知らないが。その一方で、構図や人物、着物の組み合わせの妙をはかるため、実際には難しい体のひねり方をしている。ただ、「枕絵」というぐらいだから、夫婦生活の参考にはきっとしていたのだろう。しかし「教科書」には「嘘」もあるので、信じ過ぎると「バカ夫婦」として「手をくじく」わけである。この辺りの事情がみなわかるから、笑うのである。この展示を見て笑った人の数もそうとう多いだろう。
よくあるアイドル・グラビアも、あれは一般人が真似るという大変だと聞く。体の柔らかさとプロ意識あってこそのグラビアアイドルなのだ。ロダンとかの彫刻モデルもありえない体位をしている。芸術のためなら、みんな苦労しているのだ。
この春画展、日本でも巡回展を予定していたが、いずれの企画もポシャってしまったらしい。「反対勢力」が根強いのだ。個別の事情を聞くと、仕方ないのかな、と思う。やはり日本では、なまなましすぎるし、そして一部の人が強力に嫌悪するぐらいであるからこそ春画たりうる、といえなくもない。ある意味、現代アートと似ている。ただし、ほとんど全ての浮世絵師が並ならぬ情熱と技術を携え、お上のシバリをかいくぐり、イノチガケで制作をしていたことを考えると、現在のように半ば無視されている日本の現状は、世界史的に見て「野蛮時代」といえなくもない。
春画を通してわかること、春画自体の技術など、汲み取れることも少なくないと思うので、今まで嫌悪していた方も、機会があれば見ていただきたい。
(そんな背景も有り、今は秋華洞でミニ「春画展」を続行中。)