新コロ・画廊の夜会・煩悩・白日夢・・
東京も、世界も、異常な状況の真只中です。
もうこの異常さは壮大過ぎてこのコラムでは描写しきれないほどです。最近はもう本業以外で情報をまとめていくしかないと思い定めて別途別のブログで発信をはじめました。
コロナのことです。コロナには「怖い・怖くない」そしてワクチンにも「怖い・怖くない」の考え方の違いがあって、日本人に分断がもたらされています。細かくみていくと、アメリカなどの外国でも、その対立がありそうです。世界中で大規模なデモも起きています。
この話題はそれぞれのお客様におかれても意見の違いがあるに違いなく、商売人としては話題にするのが憚られるところです。ただ、今のテレビが垂れ流す情報にただ乗ることは危ない結末に導かれるように思われます。
あの戦争の当初、戦争賛美に明け暮れたマスコミにリードされた私達の祖父たちがやがてどんな目にあったのかを考えると、黙って過ごすことが良いとは思われません。どうか、マスコミ以外の生データも見て、できれば多言語で情報を見て、自らみなさんご判断いただければと切に願っております。
さて、どんな状況になろうと、私達、日本人は強く、たくましく生きていきたい。生きる上で必要な活力はなにか。
それは性。エロスのエネルギーです。
ちょっと強引でしょうかね。
この文章は3日後から始まる展覧会に先立って書かれているので、多少の強引さはお許しください。毎年5月に行われる「画廊の夜会」にぶつける企画として、今年私達は「エロ」をテーマに選びました。
題して「煩悩白日夢」。
ここで主題を演奏するのはやはり三嶋哲也さんです。彼は古典技法を生かして油彩画で女性たちと果物・花を描く作家です。
私が彼の世界を好きなのは紋切り型の「芸術性」というやや白々しい「言い訳」をかぶせて性を描くのでなく、ストレートに欲望的絵画を描こうとするところです。むっちりとした肉体を持つ三嶋美人は、いくぶん癖がある肢体と顔を持ちますが、何か現代の日本女性のリアルを感じさせて、力強いのです。申し訳ないけれど、現代写実の画家の9割位は、どこかこう白っぽい、美しさという名前の嘘をかぶせている気がする。その嘘もときに心地よく、これもはやり人の欲望をそそるのだけれど、どこかで人を裏切るダブルスタンダードが秘められている気がする。その理由の一部は、彼らが写真を撮ってから、それを画布に写し取る作業をしていることと無縁ではないでしょう。
「何をもって美しいとするか」という主題に対するむき出しの率直さが、三嶋世界を強く支えているのです。
その三嶋エロスにひきよせられるように、三人にアーティストが集まりました。
具体的に紹介していきましょう。
今回、秋華洞企画に初参加の木村了子さんは三嶋さんの紹介です。かつて三嶋さんは木村さんのモデルになったこともあるようです。
木村了子さんは、日本画でエロ的男性画を描く作家。ちょうど三嶋さんの裏返し、逆張りのような存在です。
女性目線で男性を描く、というポジションにばかり目が行くと、それだけなのかな、と思ってしまいますが、木村さんの仕事を見ていて気がついたことがあります。
それは彼女が日本美術の古今の様式美を真摯に学びつつ、ひとつのエンターテイメント王国を築こうとする取り組みの軌跡です。私は、今コレクション展を開催中の故・福富太郎さんに日本のエログロ史を教えてもらいましたが、実は日本人のエロ好きはかなり古く深いのです。江戸の春画の豊かさはロンドン国立博物館と目白の永青文庫の大規模展覧で知られるようになりましたが、実は江戸のみならず、明治・大正・昭和と日本人の情熱は続きます。それは下世話なものから洗練されたものまであって、性的絵画の系譜は連綿と熱意をもって続けられてきました。そのエッセンスを汲み出して、女性目線の男性画として再構成する彼女の絵描き魂に、大きな力を感じます。
昨年から紹介させていただいているDaikichiさんは人形作家。「人形」といっても、単に品よく可愛いだけの人形でもなく、四谷シモン系のデカダン的美意識でもなく、なにか少女のもつ無垢な『質感』のようなものをどこまでも煮詰めて美しく閉じ込めたい、という、欲望に欲望を詰め込んで練り込んだような美しさ。現実離れしているくらいにリアルな人形。あまり見なかったタイプのフェティシズムです。たぶん、世界のどこに行っても、彼の持つ「リアル」に近いものを見ることはできないでしょう。
永田優介さんは、昨年行われたTagboatさん主催のINDEPENDENT(コンテスト)展で、私が審査員賞を出した写真家。路上フォトを得意とする人です。街角の男女を切り取る手法は森山大道、藤原新也、荒木経惟など大家がそれぞれ大輪の花を咲かせているので、今の時代、街であらたな何を切り取るのか、簡単なことではありません。ただ写真という手段がもつ、一瞬の表情、光の演出、そして社会を路地から見つめる好奇心、そこに彼ならではのエネルギーを感じて、声をかけさせていただきました。彼の写真の中で、街の猥雑さのなかに、いまの命は生きています。
彼は文章も書きます。現代の風景をどう切り取ってくれるのか、楽しみです。
というわけで、梅雨に入りそうなコロナ脳下の銀座で、元気の素=人間の煩悩エネルギーの源、「エロ」を共通テーマとしたこの展示をお楽しみいただければ。もしよければ、ご購入くださいませ。
https://www.syukado.jp/exhibition/carnal-daydreams-2021/
三嶋哲也、木村了子、daikichi、永田優介による、かつてない異色の4人展。男女の肉体の匂い立つ表現が際立つ、油彩画家、日本画家、人形作家、写真家の表現が、妄想と現実がクロスする白日夢へと誘います。
作品は事前販売も行っております。お気軽にお問い合わせください。
展覧会情報「煩悩白日夢」
会期 2021年5月28日(金)〜6月5日(土)
会場 ぎゃらりい秋華洞
時間10:00〜18:00備考会期中無休 入場無料
※5/28(金)は20:00まで営業
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