陳珮怡画集刊行記念チン・ペイイ個展、今週金曜日から。
さきほど、メンバーである築地ロータリーの皆さんに今度の展覧会のお知らせのスピーチをしてきたのだが、「台湾でも大人気の女流画家」だの「直ぐに完売」とか「猫好きの人はどうぞ」とか紋切り型の紹介に終始してしまった、自分の弁舌のつたなさに自己嫌悪に陥りつつこの文章を書きはじめる。
陳珮怡を私どもが本格的に扱うことになるのは、いくつかのご縁が積み重なって何か自分でも不思議な気がするのだが、ここでいちばん言いたいのは、たんに猫が可愛くかけているとか細かい描写だとかそういうことではない。
それは、彼女と「猫たち」を通じてたち現れる世界の美しさ、あるいは愛の深さのようなものである。
このたびの展覧会は、青幻舎さんが個人画集を企画してくれたことから始まったものだ。画集刊行のタイミングで個展をやる事で、彼女をより強く日本に紹介したいということであった。
この個人画集「猫さえいれば」の出来栄えは素晴らしい。いやまだ私が見ているのは未完成原稿の「ゲラ」なので、正確に言えば素晴らしくなるはずだ。彼女の絵も、レイアウトも、デザインも勿論いいのだが、何より彼女の言葉がいい。なぜ彼女が猫の絵だけを描いて生きているのか、それがわかる。
この本の中扉の最初のページにこうある。
『「今のあなたには猫たちと絵さえあれば、ほかのものは何も要らないみたいね」と友人にいわれたことがある。
まさに、その通りなのである。』
絵描きである以前にひとりの女性である彼女が、現在のこの境地にいきなり至ったわけではないだろう。人間としての様々な葛藤や人に言わぬ努力をして、今のチンペイイになったことだと思う。そうでなければ、彼女の台中にある画室に訪れたときの、あの落ち着きや優しさ、物事に対する慈しみの視線などの説明がつかない。
彼女は自ら撮影した猫たちの写真を多くSNSに投稿している。そのどれもが事物に対する新鮮な驚きに満ちていて、美しい。彼女の絵は、抜群の技術を持つ日本画(膠彩)であり、猫の毛一本一本まで緻密に描かれ、しばしば登場するカーペットの質感が驚異的であるが、彼女の撮影した写真を見ていると気がつくことが有る。それは彼女の絵が美しいのではなく、彼女のものの見方が美しいのだ。
彼女の感受性を通すと、彼女と猫を包むマンションの一室は、そのまま人の感受性をいつも開かせる宇宙となる。
それは、熊谷守一が自宅の庭だけをひたすら何十年も見つめて辺りの自然を描いていてまるで飽きなかったのにも似ている。
良寛和尚や、熊谷に日本人が求めた、欲張らない、おごらない、ありのままを楽しむ心境が、彼女の絵の小宇宙には溢れている。
画集のページをめくり、様々に戯れる猫の絵を見て、彼女のちょっとした言葉を読むと、そうしたことがしみじみと感じられ、静かな感動が体に満ちてくる。
今回の展覧会で、その彼女の世界を伝えられたらと願っている。10点だけの小さな個展であるけれども、彼女の製作中の姿などもパネル展示する。また、今度出る画集の先行販売も行う。ぜひ足をお運びください。
初日の9日から二日間、ペイイ本人が在廊する。ぜひ本人のたたずまいにも触れ、この世界を感じていただければ幸いである。
展覧会情報
会期:11月9日(金)~19日(月)
場所:ぎゃらりい秋華洞 時間:10:00~18:00 会期中無休 入場無料
レセプションは11月9日(金)17:00~ ※9日、10日作家在廊します
「陳珮怡画集 猫さえいれば」(青幻舎)青幻舎公式サイト
展覧会会場・秋華洞オンラインショップでも販売いたします。
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