ゴールドマンコレクション。渋谷の文化村の『河鍋暁斎』展
2017/03/14
ゴールドマンコレクション、と現役のディーラーの名前の冠をつけた展覧会は実は珍しい。だが今回の暁斎展はこの「個人コレクター」が蒐集した、という点が展示の特長でも有り、また「蒐める」ということがどういうことであるのか、世のコレクター諸氏にも参考になるのではないか、と思う。
ゴールドマンさんは同業者のお知り合いである。知的でユーモアのある、金色の薄い髪をなびかせた、丸っこい紳士だ。知性を表に出してウンチクを垂れる、というよりは、いつも冗談ばかり言ってニコニコしている、そのくせディーラーとしての鋭い目が眼鏡の奥で光っている、そういうタイプである。
このコレクションを集めた理由を問われて「暁斎は楽しいからですよ」と答えたそうだが、その彼の人柄とこの暁斎ワールドは深いところで共鳴している。コレクションの理由はシンプルでいい。心の奥にある何かが、ほんの少し響けばいい。やがて人生とコレクションがなにか不可分のものになっていく。
なんといっても、ゴールドマンのコレクションが完璧なものになったのは、福富太郎さんとの出逢いであろう。福富さんの本の中で入手のエピソードが興味深く描かれている「幽霊図」など、暁斎を心から尊敬し蒐集した福富さんのコレクションの譲渡が彼の品物群の背骨を完璧なものにしたのは間違いない。
今回の展示で、初っ端、何と言っても目を引くのは「カラス」のコレクションである。暁斎が世に名前が出ることになったキッカケと言ってもいいカラスの図は、何度でも飽きず描いているのだけれども、これを10点近く並べて見せている。当然のことながら、一点ずつ、微妙に印章や落款、あしらいが違い、一つの図を描き続けた暁斎の心ばえを想像させる。こういう「繰り返し」のコレクションが個人コレクターによるコレクションの肝ではないか、と思った。並のコレクター、あるいは美術館なら「一つあればいらない」、となったかもしれない。しかし本来ひとつあってももう一つ欲しい、というのが本来の意味でのコレクションであろう。コレクションするのに、合理的な理由などあろうはずがないからだ。このたくさん並ぶカラスに、「ああ、楽しいなあ」という気持ちがジワジワと湧いてくるというものだ。この展示を企画した学芸員諸氏の眼目もそういうところにあるのだろう。
全体を見通して、暁斎の筆力の鋭さ速さ巧みさは言うまでもない。一方で、水墨や淡彩の絵が多いことも印象に残った。そして雑多な木版画類など。率直に言って、チープな仕立てのものが多い。絹本の極彩色の絵画、たとえば晩年の北斎や若冲の動植綵絵、あるいは上村松園の作品群が誇る豪華な仕立ての作品は少ない。江戸から明治という時代の変わり目に在野の画家が生き抜くことの厳しさを反映しているようにも思う。時代の変動期に仕事はなんでも受けて、そのかわりに自分の誇りは捨てず己を貫き通した画家の自信が伝わる。あの歯並びの悪い暁斎の肖像写真を思い浮かべながら、逆境にめげない「我ら」のヒーローとしての暁斎に思いを馳せる展覧会であった。
『ゴールドマン・コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力』展覧会URL http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_kyosai/
会期は4/16まで。渋谷Bunkamura。
この暁斎コレクションの中核を占める福富太郎さんのコレクションの一部が、私どもにもある。機会があれば、秋華洞でもご覧くださいませね。
ぎゃらりい秋華洞 http://www.syukado.jp/
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