ああ、もう好き、ユキエカナちゃん『ありふれた奇跡』
『ありふれた奇跡』
あいも変わらず素晴らしい。
山田太一の久しぶりの連ドラで、もしかしたら外す(すべる)可能性もあると思っていたが、かなり完璧な仕上がりになってきている。
仲間由紀恵は相変わらず、一種の棒読み的台詞回しが目立つ。しかしそれは昭和天皇の棒読みがある種の呪術的な力を持っていたのと同様、
なんというか力がある。心がある。「ホテル、とってあるの。」「もう、会わない。」思いやり、傷つき、考え、表現する。生きることの美しさ、
切なさを表現してあまりある。勿論山田太一の脚本の力でもある。
このドラマの影の主人公は岸辺一徳演じる仲間由紀恵=中条加奈の父親である。彼はやや愛情が薄い、というか家族に無関心な面がある。
その母親である八千草薫も、妻の戸田恵子も、もちろんヒロインの仲間も「熱」のある人間にもかかわらず、どこか彼は対応が空々しく、
テンポがずれている。そもそも妻が浮気をし、岸辺が女装趣味に走り、娘の仲間由紀恵が身ごもった子供をアジアで堕胎するのも、
岸辺がいつも冷たいせいである。すべての登場人物をかき回す元凶になっているにもかかわらず、本人にその自覚は全くない。
むしろ迷惑を受けているように思っている。そのギャップが面白い。しかしこういう負の存在がいないと、ドラマは作りにくい。
予定調和で話が終わってしまう。
しかも誰もオモテだって、父親を責めない。みな、優しいのである。優しいが故に自分が傷ついてしまう。しかし、
前向きに生きる力を登場人物がそれぞれに持っているのが嬉しい。
結婚する、という加瀬亮に、子供が出来ない結婚は反対、と頑張る井川のじいちゃんはフェアである。これは俺の意見。俺は反対だが、
決めるのはおまえである、と常に孫を応援している。その心配りのある人物造形が見事である。風間杜夫の父親もやや頼りないが、
子供への愛情なら負けてはいない。どうしようもないぐうたらな妻への愛情も、切なくて面白い。
八千草薫は、いうまでもなく素晴らしい。山田太一の定番メンバーであるが、あの表現力はすさまじい。どっかとぼけているのだが、
なにか真情をにじみ出す演技は山田の脚本とシンクロして、もうドラマに没入してしまう。
そもそもセックスもしていないうちから、両家の両親が結婚、結婚と騒いで本人たちもその気になってしまう、という成り行きも「今風」
でないのが面白い。セックスは来週あたりありそうだが、わからない。80年代、90年代と、セックスと青春は一大テーマであり、
そこがドラマの中心であったが、セックスの重みがなくなってしまった今、あらためて心の時代であることを象徴している。激しい恋愛の描写
(深作みたいな)は、もう見飽きてしまった。
ちなみに、このドラマ、家の近所がロケ地である。その意味でもルンルンなのである。
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