洲之内さんと父
そういえば
一昨日の新幹線の帰り、面白い事を父から聞く。気まぐれ美術館で有名な洲之内さんの画廊は、思文閣東京店の入る恐ろしく古いビルの上に入っていたとのこと。
何度もその話しただろう、情けないな、もう。と怒られるが、はじめ聞いたときは、スノウチさんの事は知らなかったのだ。昔ながらの、手で蛇腹状の扉を開け閉めする、ひどいエレベーターがあり、ちょうど「気まぐれ美術館」のスノウチさんの画廊と同じだな、とは思っていたが、まさか子供の頃から慣れ親しんだあのビルそのものだったとは。
しかも何かの用事で洲之内ともちょっと交流があったらしい。あまり話はかみ合わなかったらしいけど。
ただし僕は正直申しまして、「気まぐれ美術館」よりも壷中居こちゅうきょさんのご主人が書いた本の方が面白い。ちょっと文学ロマン的なにおいのする「気まぐれ」よりも、身も蓋もなく、ともかくわけのわからない丁稚小僧の時代から、生き延びるために美術商になった不狐斎さんの人生のなりゆきの方が、なまなましく感じられるのだ。
美術の世界は、美術館のショーケースに入った、おとなしいものではなくて、本当は絵描きと画商とコレクターの欲望とロマンの渦巻く世界だ。そして、そこには愛も友情も欲望も義理も人情も打算もあって、何かそういう生なものに触れる世界を描いた伝記は面白いと思う。その意味で、亡くなった夏目さんや、藤井さんなどが書かれた一代記は(他にもあります)面白い。昔の人はあっけらかんと過去のことをばらしてしまう。美術業界、全然閉鎖的じゃないなと思う。まあ今現在の事はお客様のプライバシーがあるので、過去のことだから書けるのだろうと思いますけれども。
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