はるか遠くに出張査定、台風コワイ
本日は、かなり遠方に出張査定。なかなか拝見できない作品なので私もお供で行く。今回は商談のみ。
新幹線に乗っていったのだが、父とこうして長く乗ると、しばしば美術業界の昔話、裏話になる。業界の大物、曲者、変わり者、異才、豪傑・・・の話が面白いがとりとめがないので、途中で話がわからなくなる。こういう「トリトメない話法」は思文閣の社員もちょっと困っていたらしいが、まあでも、中身は貴重な話です。
昨日は、ブログに書かなかったが、神保町に用事でいって、美術参考書をついでに買ってきたのだが、その中に、現在の画商の重鎮、浅木さんの先代の書いた「運鈍根」という本があった。新幹線の中で読んだが、そうとうに面白い。
ちょっと紹介しきれない位なのであるが、その中でも私どもでしばしば取り上げている「小室翠雲」のエピソードが面白い。翠雲が浅木さん他二人くらいだったか、画商三人に「これで遊んできなさい」とばかり、軸ふたつ、時価二千円、当時家が二軒建つ価格をぽんと渡した。三人で京都、名古屋の料亭、遊郭と遊び倒してもなかなか減らず、800円を残して戻ってくると、「ドーン」と翠雲の大カミナリ。話の展開からして「遊びすぎだ」というのかなと思えばさにあらず、「この程度の金を使い切らないなんて、なんてけちな了見なんだおまえたちは」と怒られたという。
バブリーな感覚と思わぬでもないが、こういうことが本気で言える人物は漫画ではいても本当には、なかなかいないだろう。粋に生きた男の面目躍如のエピソードではあるまいか。
当時西の栖鳳、東の翠雲、といわれていて、筆力では当時から栖鳳が評価が高かったが、政治的影響力に冠しては翠雲はずばぬけていたという。伊藤博文など、大物とのつきあいがあったこともあるだろうが、ともかくきっぷがよくて任侠肌の翠雲は、水商売の女たちが「一晩だけでもいいから一緒に過ごしたい」と思われるほど、のモテ男で、なるほど政治力も有るわけだと、あらためて感心する。
それともうひとつ。
浅木さんは「古着商」と「緞子裂地商」の丁稚をやった。その苦労たるや、ミジメで悔しくてという様子が克明に描かれている。このブログを「丁稚ログ」などと名乗っていることが軽佻浮薄に思えてきた。
夜、台風が来ている。今、窓の外はすごい雨量だ。夜、子供たちが目を覚ましそうな勢いである。
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