映画「かくかくしかじか」日高先生としての原先生
さて、そろそろ、お知らせいたします。
原崇浩さんの個展を、ぎゃらりい秋華洞では、2025/6/14(金)~22(土)に開催いたします。
実は、今度の5月16日に公開される映画「かくかくしかじか」の劇中画を原さんは担当しており、映画の非常に重要な場面で登場します。その公開のタイミングに合わせた今回の個展。ちょっと今までと違う展開になりそうな予感も。

この映画「かくかくしかじか」の原作は東村アキコ先生の作品。彼女は「東京タラレバ娘」などで有名な漫画家だが、宮崎の絵画教室を経て、金沢美大に進み、漫画家になりました。
実は、彼女の中にはもっとも大切な絵画の恩師がおり、彼のことをどこかに描きとめておきたくて、満を持して作品にしたのが「かくかくしかじか」でした。この題名は、要するに東村さんがどうして漫画家になったのか、という私的な漫画ということになります。そして、今はもう亡くなられた日高先生(日岡兼三さんが本当の名前です)を世に知らしめた作品。
私達は、この物語を通して知っておくべきなのは、宮崎の海岸際の小さな画塾でひとり写実することの大事さを命をかけて伝えようとした一人の男と、その生き方についてなのです。

いつも竹刀を手にして、きわめて厳しい日高先生はしかし絵を「かく」ことに忠実で、というか愚直で、どんな悩みを生徒が持とうと、「かけかけかけ」、ただそれだけなのです。
でも、その「かけかけかけ」がやがて東村先生の人生を救うことになります。
「かけかけかけ」は今度発売されるダ・ヴィンチに掲載された原さんのインタビューでは「見ろ」ということと同じだ、とされている。まさにそのとおりだと感じております。
https://www.fujisan.co.jp/product/1613/next
同時に、私達はそれだけじゃないものも感じます。不思議なことに、「かけかけかけ」は画家ではない私達にも「救い」にも感じられるのです。

漫画だけでも感動的でしたが、映画もまた非常に感動的でした。原作漫画が優れている場合、映画はたいていがっかりすることが多いのですが、東村はこの映画のキャスティングからロケまで徹底的にこだわったようです。でないと、あの宮崎、金沢、東京の画室のリアリティは出ないでしょう。
金沢美大の先輩だった原崇浩さんが日高先生の絵を担当したのも、ともかく「かく」ことを重視した日高先生のことを表現するのにもっともふさわしい作風だと東村さんが見込んだからだと思います。
そして実は、私に言わせると画家としてのたたずまいも似ている。飾り気がなく、率直で、部屋に竹刀を置いているし(原さんは実は剣道部に所属していました)、ものをみて描く、という基礎を大事にしている画家のポリシーにも近いものがあります。
日高先生は直情怪行が強調されているけれども、多分繊細な画家だったようにも思われます。そして原さんはもちろん漫画と映画の日高先生ほどエキセントリックではないけれども、こと今どきの大学(先日まで広島大で先生をされており、実はこの春からも某大学で教える予定だとか)ではだいぶ無頼な人。実際の人物像も本当は近いのかもしれません。それを知るのは東村さんだけ。でも、生徒に対する愛情の深さも、同じように私には思われます。この二人が生前会っていたら、面白かったのに。

それにしても日高先生を演じる大泉洋の演技には驚きました。漫画のイメージそのままにあの日高先生だったのです。漫画は間違いなく傑作ですが、映画も漫画に引けを取らない感動作でした。映画ならではの演出も光ります。ラストシーンのすがすがしさは現代映画らしい、素晴らしいものでした。
最後にここでお見せするのは東村アキコ先生の描いた原崇浩先生。竹刀が日高先生との共通項(あ、ジャージも)!
